ものづくりの精神
小さな飲食店のオーナーさん、店長さんは、日々すべての仕事をこなさなければなりません。オーナーさんでしたら、財務についてもかなりの時間を割かなければならないことでしょう。厨房、接客サービス、マネジメントという3つの顔を持つことになります。
これは会社組織で言うと、生産、営業、総務、さらには経営も担うということになります。小さな飲食店は組織ではなく人ですから、すべてをこなすのは本当に大変です。
さて、あなたは人間ですから、小さな飲食店をやり続けるための動機というものがあるかと思います。この動機、言い換えれば思い入れなのですが、思い入れの強い部分が厨房なのか、接客サービスなのか、それともお金や人のやりくりなのかによって、作り上げるお店の姿が違ってくるでしょう。
ところが、会社と一緒で生産・営業・総務(本当はもっとありますが、ここでは単純化してお話しします)のバランスがしっかり取れていないと、偏ったお店になってしまいます。
前置きが長くなりましたが、飲食店の本質は食べ物を提供する場所ですから、厨房つまり生産の部分が疎かになってはいけません。先に「商品ではなくあなたを売る」というお話をしましたが、商品のクオリティが下がってもいい、ということではないのです。商品のクオリティがしっかりあって、そのうえであなたを売るのです。そのあなたが、確かな商品を売るということが大切で、商品がダメならただの詐欺になってしまいます。
生産は、お客様が満足できるものを「設計し」「作り続ける」ことが重要で、「作り続け」られない=クオリティを維持できない、ブレる可能性があるものを「設計」してはならないのです。これを小さな飲食店に落とし込んで考えてみると、あなたが四六時中厨房に立って、ピークタイムでも同じクオリティでお料理を提供でできるのであれば何ら問題ないでしょうが、ところが1人オペレーションの時間帯に、厨房も接客もお会計も、すべてをこなさなくてはならない状況で、同じクオリティのお料理を提供できないのであればそういう商品を設計しないことです。無理をすれば切り盛りできるのですが、必ずクオリティが下がるのです。ただ及第点で提供しているだけ。それは作っているあなたが一番わかっているはずです。
小さな飲食店で勤務しているときに、こんなことを考える人はあまりいないでしょう。ところが、商売の本質を考えると、物の売り手と物の買い手の取引なのですから、信用を損なうようなことがあってはならないわけで、『「設計当初のクオリティ」を維持した商品を作り続けること』に妥協があってはならないのです。
老舗の飲食店で長年修業されて独立されたような店主さんには不要なお話かもしれませんが、ものづくりの精神について触れてみました。